廃業のすすめ

皆様こんにちは。
栃木県よろず支援拠点コーディネーターの矢口です。

今回は、「廃業」について書かせていただいています。内容的には、支援機関向けに書いた内容ですが事業者の皆様にも役立つ点がありますのでぜひご一読ください。また、わからない点があればお気軽にお問い合わせください。

はじめに

最近の新聞報道や信用調査会社のデータをみると、意外と倒産や廃業件数が少ないのに驚く。しかし、長引くコロナ禍の影響から企業業績の悪化はかなり進んでいる。これらの情報や実体験から倒産企業の予備軍は増加傾向にあると確信できる。ますます、窮境状態の企業が増加し、廃業などの道を歩まざるを得ない企業は少なくないだろう。

今後、増加が予想できる「廃業に陥る可能性のある企業」の対応策について考えてみたい。見出しを「廃業のすすめ」としたが、誤解しないでほしいのは、必ずしも廃業を薦めているのではなく、肉体的・精神的な苦痛から脱皮し、新たな人生に向かってやり直していただきたいという信念からである。それには早めの決断と実行が必要なのである。

第1章 最近の経営環境と廃業

1.企業の新陳代謝(淘汰そして開業)

最近のコロナ禍で窮地に追い込まれている業種には、特に人流抑制の影響が大きい飲食業界、ホテル・旅館業界、観光地での事業所、そして、これらの業種と取引している関係会社などである。

一方、ITなどの進展による新たな販売方法、消費者の多様化・個性化の応じた新たな業種・業態などが生まれ、同時に国など官民を挙げた創業支援策が奏功し、開業の動きも活発となっている。また、「もの不足時代」に開業した多くの企業が時代の変化に適応できない状況にある(業績悪化、後継者不在…)。

東京商工リサーチによれば、経営者の年齢と業績は逆相関にあり、増収企業の割合は社長が30歳以下で54%、年齢が上がるにつれて下がり70代以上では39%だった。年齢がすべてではないが、意欲の高い若い経営者を増やすことは経済の活性化につながるという。

このような開業、廃業の動きの背景には、人口減少、消費の多様化、ネット販売の進展などがある。さらに需要と供給の質的・量的なアンバランスの是正が働き、企業の淘汰や新規開業などの新陳代謝が活発になっている。

2.廃業への追い風が吹いている

中小企業の赤字企業の割合は約7割、他の主要国の赤字企業の割合はおおむね4.5~5.5割程度なので日本の赤字の割合はかなり高い。赤字が続けば債務超過や資金繰り悪化に陥り、いずれ廃業に追い込まれる可能性は高い。特に今回のコロナ禍がこの傾向に拍車をかけることは間違いない。

廃業した企業の組織形態は個人事業者が約9割を占め、廃業者の年齢構成は60歳代以上が約9割を占める(中小企業白書)。また、廃業の可能性を感じてから行った取り組みでは(下図)、約4割が「特に行わなかった」である。このように自ら率先して行動に移すケース少なく、廃業を感じてからの行動が遅いため、より悪化状態に陥ることになる。

中小企業白書によると、60歳以上の経営者が全体の約83%強を占め、引退時期は68歳から69歳が多く、60歳以上の経営者の48.7%が後継者不在であるという。このようなデータから判断すると、今後廃業に向き合う経営者はかなりの人数に挙がるものと推察できる。したがって、今から廃業に向き合う覚悟とその対応策に目を向けるべきであり、廃業を身近に感じることが重要である。

倒産数と廃業数の合計は年々増加、しかし廃業件数は増加しているものの、倒産件数は横ばい傾向にある。

廃業件数が増加している理由として、下表(2019年版 中小企業白書)から推測すると「後継者問題」よりも「将来の不安」などを理由として廃業を選択しているものと判断できる。

倒産件数が少ないのは、早めの自主廃業によるものであり、その理由は前述したように将来の不安からの決断と思える。すなわち、将来性を鑑み健全経営を行っている状況下の中で判断、すなわち悪化する前の手立てができる企業なのである。したがって、判断の遅い意企業が倒産に陥っていると推測できる。

3.廃業も経営戦略の一つとして捉える

廃業は後ろ向きの姿勢としてマイナスイメージで捉えられている。その為、積極的に対応しようとする気力が湧かない。廃業=倒産・破産との見方がある。

廃業は企業生命の最終段階とするイメージが強く、人間でいえば「死」を意味した捉え方がなされている。したがって積極的に対応しようとしないが廃業を前向きな経営戦略として捉えることが必要である。企業は消滅しても人生のやり直しはできる。廃業処理こそ、次へのスタートへの準備である。

攻めるよりも退く判断と勇気が必要。退く経験こそ、次の攻める経営のノウハウとなる。1~2度の失敗経験は、むしろ成功するための試練を経験していることから、再チャレンジでは大きな成果が得られる。

経営から撤退し、別な人生を歩むのも大きな意思決定である。要は将来を鑑みた時、どのような道を歩むのか…の早い意思決定が泥沼に陥らない方法である。

第2章 廃業に係る基礎知識

本稿でいう「廃業」とは法的整理ではなく、企業が自主的に事業をやめることをいう。できれば破産や倒産など最悪な状態を回避するために講ずるべき考え方や手法などである。

1.廃業・休業・倒産とは

廃業とは、法人や個人などの事業体が自主的に事業をやめることをいう。また、休業は、さまざまな理由により事業を一時的に停止させることをいう。廃業の手続きが複雑なのに対し、休業は税務署や自治体への届け出のみで可能で、特別な費用も必要としない。また休業中は事業を行わないため、その間の法人税や所得税は発生しない。

倒産とは、資金不足などにより不渡手形を6ヶ月に2回出すことで銀行との取引が停止となり事業が継続できなくなる状態をいう。また、借入金や未払金などの債務が増加して返済の目処がたたなくなり、経営の継続ができない状態を経営破綻という。

2.廃業手続きとは何か

個人でも法人でも、事業を開始する時には開業手続きが必要となる。それと同じように事業を廃止する場合、個人でも法人でも廃業するための手続きが必要となる。この廃業するための手続き全般を指して「廃業手続き」という。

ただし廃業する事業体が個人の場合と法人の場合によって、廃業手続きのプロセスが異なる。開業する時に税務署に開業届を提出するだけで開業することができる個人事業の場合、廃業する時も基本的には税務署に届出を出すだけで廃業手続きは完了である。

一方、法人の場合は税務署や自治体に届出を出すだけでなく、最終的には法人自体を消滅させるまでが廃業手続きとなる。そのため、法人の解散と清算のための登記を行わなければならない。

3.自主廃業(通常清算・私的整理)

会社運営の業務を終えるには会社の解散を行う必要がある。 会社の解散は、株主総会の決議等で決断されるが、ただ解散をしただけでは完全に会社を廃業したことにはならない。その後、会社の財産(不動産や機械など)を換金し、株主に会社の財産(残余財産)を分配や債務整理、法人税の申告などといった清算の手続きが必要である。

私的整理には、特定調停に関する法律に基づき、主に金融機関からの金融債務について債権放棄等の権利変更を受ける特定調停もある。

4.法的廃業

債務超過になった株式会社の清算の方法としては、法律上「破産」のほかに「特別清算」がある。場面に応じて「破産」か「特別清算」のどちらかを適切に選択する。

破産手続とは、裁判所によって選任された破産管財人が,支払不能または債務超過の状態に陥った債務者(破産者)の財産を管理・換価処分して、それによって得た金銭を債権者に弁済または配当するという裁判(法的整理)手続である。

特別清算は、債務超過に陥った会社を廃業させるための手続きである。会社を清算し、消滅させるための方法で倒産手続きのひとつである。破産や民事再生などの他の倒産手続きでは、原則、債権額に応じて均等に返済するが、特別清算では不利益を受ける債権者の同意があれば、債権者によって異なる割合で返済をすることができる。

5.廃業の際の問題点とその解決策

①贈与税の発生

社長が会社に貸し付けている場合、債務免除をしないと相続税が発生した際に相続財産が大幅に膨らみ、結果として多額の相続税を支払わなければならなくなる。

②債務超過の法人が廃業する場合

個人が廃業する場合、債務超過であっても事業の廃業そのものは税務署へ廃業届を提出するだけで可能である。しかし、債務超過の法人が廃業する場合は法人の資産を負債の返済にあてても返済しきれない場合は清算手続きを行うことができない。この場合、一部の例外的なケース以外はほぼすべて破産手続きへ進むことになる。

③債務免除の留意点

役員等からの借入金を減少させる対策の一つとして、借入金の一部または全部を免除(役員等の視点からは債 権放棄)してもらう方法もある。役員等に債務免除をしてもらうと、法人においては、その免除された金額が「債務免除益」として収益に計上されることになる。債務免除益を計上した後でも当期が赤字である場合や黒字になっても、その黒字を超える税務上の繰越欠損金があれば法人税等は課税されない。

複数の株主から構成されている同族会社において、株主である役員等に債務免除をしてもらった場合、株式に評価額が算出されると、他の株主が所有する株式の株価が上がることとなり、株式の価 額の増加部分が、「債務免除をしてもらった同族株主から他の同族株主への贈与」とみなされ(みなし贈与)、贈与税が課される場合がある。

④DES(デット・エクイティ・スワップ)

役員借入金を資本金に振替えることで社長の財産は「貸付金」から「株式」に組み替り、評価圧縮が可能となる。「役員借入金」を現物出資するDESは、資金移動が不要であるとともに増資手続きも簡略なため有効な手段である。

⑤役員報酬の減額

役員報酬を減額して、減額した額を役員借入の返済にまわす。このことで役員の手取りは以前と同額となり、しかも役員借入が減少する。

⑥期限切れ欠損金を利用

会社を清算したいが利益があって税金がかかってしまう場合に期限切れ欠損金を利用することで節税となる。通常、社長からの借入がある会社は赤字会社が多く、貸付金の回収見込みがないのに相続税がかかってしまうという事態に陥ってしまう。このような場合、会社を清算することで貸付金を相続財産から外すことができる。具体的には決算書の「別表5」(一)31がマイナスであること。

第3章 経営者の心理と決断

1.自主廃業の難しさ

結果的に廃業の道を歩む企業の多くは業績不振に陥っている。特に金融機関などからの借入や買掛金、未払金が多く返済できないケースである。業績が良くなるまの先送りや廃業決断ができないなどの理由がさらなる悪化の原因となっている。

廃業するタイミングを失うケースも多い。今なら軽傷で済むという状態でいながら決断が遅れ、最終的には手遅れとなり重症あるいは死(倒産)を招く。

相談する先がない、あるいはわからないというケースもある。したがって、前向きに対処する機会が失われ、最悪に近い状態で弁護士に相談するという手遅れの結果となる。

2.相談者の意思

多くの相談者は破産を避けソフトランディングを望む、そのため廃業に向けた相談が始まっても核心の部分に触れるが遅れる傾向がある。また、廃業を決心させるために多くの時間と労力がかかる。

一方、廃業を避けたいために無理な理屈やできない理由などを挙げて抵抗する。これらが解決を妨げる原因にもなり、必要以上に時間や労力を必要とする。

相談者は、廃業に対し敗北者のようなイメージを抱き積極的に向き合おうとはしない。結果、自ら解決しようとする意思が働かず後手の対応となる。

3.放置は悪化のもと

上述したような相談者の心理から、問題解決に要する時間は必要以上にかかる。ほとんどの相談企業の状況は悪化の途にあることから、時間がかかればかかるほど、さらなる悪化を招くことになる。

例えば、自主的に会社の整理ができる時期があるのもかかわらず、放置することで自力では解決できない状態となる。これはケガをした状態を放置して重症に陥ることと同様である。

企業が悪化の状態に陥ると、その状況は加速度的に早まり重症化する。企業が良くなる時は時間を要し徐々に進んでいくが、悪化の度合いは急激に進むことが多い。

第4章 正しい廃業のあり方と考え方

1.正しい廃業のすすめ方

廃業=破産(倒産)というイメージを払拭させるため、ソフトランディングによる会社のたたみ方を理解する。

  ①廃業は「次へのスタートの出発点」であること

  ②廃業は「早いほど良い結果が生まれる」という理解

  ③早い廃業には労力や資金は少なくて済むという理解

  ④廃業に対する相談を積極的に行うこと

  ⑤廃業のアドバイスができる専門家や専門機関の紹介

まず、相談企業が個人か法人か、あるいは後継者の有無などを確認、次に現在の資金繰り状況や借入金の状態と債権者などの動向などを把握する。

次にソフトランディング手法(自主廃業)で整理できるかどうかの検討に入る。しかし、場合によっては法的処理も必要になることも伝える。現在の借入金などの債務状況(決算書、試算表、借入明細表など)や担保状況、連帯保証人などの有無などを確認する。

一方、同時に破産の概要について説明する。破産は法的処理を施すが、破産後の会社の状態や自身の立場・状態など、できれば破産手続きと弁護士の紹介などを伝える。特に破産後については不安などがあるので相談者は興味津々である。最悪の場合でも現在の置かれている状況よりはマシであることを理解させる。

ある程度の概要を把握したら、具体的な廃業手続きに入る。

2.不安、抵抗感を和らげる

廃業手続きは、デリケートな内容でかつ正確な情報を必要とするから、信頼関係を築いて対応する必要がある。特に会社の相談であるのに代表者個人の負債状況を把握しないと正しい判断ができない場合がある(社長個人が高利で借り入れしている場合など)。

核心に触れる前に会社の現況や事業内容など聞いて、ある程度両者間の意思疎通がスムーズになってから徐々に核心に触れる。特に法的処理が必要だと判断しても、いきなり法的処理の話を持ち出さない。

廃業手続がスムーズに行われる前提として、相談者が廃業に抵抗なく前向きに接することが重要となる。そのためには相談者の事情に合わせた「廃業の必要性」、「廃業時期の重要性」、「廃業後の状況」、「廃業しなかった場合の弊害」などを根気よく説明する必要がある。

しかし、相談時で重要なのは「廃業ありき」で対応しないことである。また、「なぜ、廃業なのか」の説明と納得が必要であり、過去からの財務状態、現状の収益状況、そして資金繰り状態、さらにこのまま継続した場合の弊害などについても説明しなければならない。

特に自力でソフトランディングができる状態での廃業への意思決定のタイミングが重要となるため、タイミングを逃すと「破産」などの法的処理を行わなければならい状況になることを説明しなければならない。特に破産の場合は対外的、時間的、資金的にも負担が大きくなる旨を説明することである。

3.終わりではなく、新たな出発点

コロナ禍でかなり厳しい状態に陥っている会社は多いと思われるが、今まで以上に新陳代謝を促す方向で対応すべきである。窮境状態から泥沼状態に入り破産という道は避けなければならない。

一方、ソフトランディングなど自主廃業が可能となれば、いつでも再チャレンジは可能となる。一度の失敗経験は逆に貴重な体験となり、二度と同じ過ちを繰り返さないという強い意志と経験は次のチャレンジに大いに役立つものである。

会社などの廃業は事業体である法人組織が消滅することであり、例え破産したとしても法的手続きを踏んで整理した結果に過ぎない。代表者たる社長の個人という人格は立派に存在しているのであるから、新たに自分の意思で再チャレンジ、あるいは今までは異なった別の事業に挑戦していけば良い。

「廃業は終わりではない、新たな事業へのスタートである」ことを納得させる。人によっては事業者(社長)という地位よりも社長の片腕、あるいはスタッフとして働いた方が自身に向いているケースもある。やり直しはいつでも可能であるし、過去は変えることはできないかもしれないが、未来は自分の意思でどうにでもなる。